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水戸地方裁判所 昭和24年(行)2号 判決

原告 大高正 外二十一名

被告 茨城県知事

一、主  文

被告が原告大畠松次郎・同大畠常男・同立原道夫・河合三郎・同田中正雄・同立原秀彦所有の別紙目録記載の土地につき昭和二十三年七月二日を買収期日とし、同日附買収令書によつてした買収処分を取り消す。

被告が原告大高とき子・同大高茂子・同大高幸子・同大高正美所有の別紙目録記載の土地につき前記の日を買収期日とし、同日附買収令書をもつてした買収処分を取り消す。

被告が原告立原昇所有の別紙目録記載の土地につき前記の日を買収期日とし、同日附買収令書をもつてした買収処分のうち、同所八八一番山林五畝十七歩、同所八九七番の山林一反五畝十歩、同所一四三九番山林一反二畝十二歩、同所八八四番山林一反二十五歩、同所八八八番山林一反一畝二歩及び同所九三八番山林一反八畝二十九歩に関する部分をそれぞれ取り消す。

原告立原昇のその余の請求を棄却する。

原告大高正・同大高市郎・同大畠栄太郎・同立原美喜枝・同立原由美子・同立原道子・同立原始・同立原勇・同大畠豊治・同立原俊雄・同大和田満男の各請求を棄却する。

訴訟費用のうち(一)原告大畠松次郎・同大高常男・同立原道夫・同河合三郎・同田中正雄・同立原秀彦・同大高とき子・同大高茂子・同大高幸子・同大高正美と被告との間に生じた部分は被告の負担とし、(二)原告立原昇と被告との間に生じた部分はこれを二分しその一を右原告の負担としその余を被告の負担とし、(三)その余は原告大高正・同大高市郎・同大畠栄太郎・同立原美喜枝・同立原由美子・同立原道子・同立原始・同立原勇・同大畠豊治・同立原俊雄・同大和田満男の負担とする。

二、事  実

第一、当事者の申立

原告等訴訟代理人は「被告が別紙目録記載の土地につき昭和二十三年七月二日を買収期日として同日附買収令書によつてなした買収処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告訴訟代理人は「原告等の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  訴外茨城県農地委員会は昭和二十三年三月二日別紙目録記載の通り原告等がそれぞれ所有する同目録記載の山林につき自作農創設特別措置法第三十条第一項に基き買収期日を同年七月二日と定めて買収計画を樹立し、同計画に基いて被告は同年七月二日別紙目録記載の買収令書(買収期日同日)を発行、同年十二月十五日から二十九日迄の間に原告等に交付して買収処分をなした。

(二)  然し乍ら右買収処分には次のような違法が存する。

1(イ) 一、四七〇番の山林に対する買収令書(令書番号茨城と第四五二号)の名宛人大高澄は昭和二十三年二月九日死亡し原告大高とき子、茂子、幸子、正美の四名が遺産相続によつて所有権を取得したものであつて、このように死者を名宛人とする買収処分は違法である。

(ロ) 一、四三八番の二及び一、四三〇番の二の各山林はもとそれぞれ一、四三八番・一、四三〇番の各山林の一部であり、訴外大畠勘次郎及び原告大畠松次郎の共有地であつたが、大正四年四月五日両名協議の上分割し前掲の二筆に相当する区域は勘次郎の単独所有となり大正五年二月二日分割登記(水戸区裁判所受附第一、一六八号)を了している。その後昭和十三年三月七日勘次郎は死亡し原告大畠常男が遺産相続によりその所有権を取得した次第であるが、前掲二筆に対する買収令書の名宛人は松次郎、勘次郎となつている。即ち、右は単独所有の土地を共有地とした点において違法であるばかりでなく、死者を名宛人としたことにおいても違法の処分たるを免れない。

(ハ) 七一三番・六九八番・九三七番・一、六三八番・一、六四三番の各山林に対する買収令書(令書番号茨城と第四三六号)の名宛人は大畠勘次郎となつているが、同人は前記のように死亡し右山林の所有権は原告大畠常男が取得している。即ち前同様所有者でない死者を名宛人とした点において違法である。

(ニ) 一、四六七・一、四六八合併番・一、四六九番・一、四三六番・八九八番の一・一、四六四番の各山林に対する買収令書の名宛人は訴外立原珍之介であるが、同人は昭和三年一月十七日死亡し、原告立原道夫が家督相続によりその所有権を取得したものである。従つてこれまた前同様の違法がある。

(ホ) 一一八番の山林に対する買収令書(令書番号茨城と第四二五号)の名宛人田中平兵衛は昭和二十一年八月九日死亡し、原告田中正雄が家督相続によりその所有権を取得したものであるから前同様の違法がある。

(ヘ) 九三八番・八八四番・八八八番の各山林に対する買収令書(令書番号茨城と第四二八号の二)の名宛人立原珍之介は前記のように死亡し、原告立原道夫がその所有権を取得したが、原告立原昇は昭和二十一年十一月中道夫からこれを買い受けて所有権を取得したものである。

(ト) 八八一番・一、四三九番の各山林に対する買収令書の名宛人は原告立原道夫となつているが、同人は昭和二十一年二月二十八日これを原告立原昇に売り渡し、同地は立原昇の所有である。

(チ) 七一九番の一、二及び八九八番の二の各山林に対する買収令書(令書番号茨城と第四二八号)の名宛人は立原昇となつているが、右山林は原告立原道夫の所有である。

即ち以上(ヘ)(ト)(チ)については、いずれも真の所有者以外の第三者を所有者と誤認して買収処分をなした違法がある。

2(イ) 一、六四四番の山林に対する買収令書(令書番号茨城と第四六二号)の名宛人は大和田満夫となつているが、右山林の所有者は原告大和田満男である。

(ロ) 一、六三三番の一、二・一、六三九番・一、六四一番の各山林に対する買収令書(令書番号茨城と第四五四号)の名宛人は立原俊夫となつているが、右の山林は原告立原俊雄の所有である。

即ち右(イ)(ロ)については、いずれも真の所有者以外の者に対する買収処分として、前同様の違法がある。

3(イ) 原告立原昇所有の八八一番の山林については五畝十七歩を、又八九七番の一の山林については一反五畝十歩をそれぞれ買収の対象としているが、八八一番の地積は八畝十七歩であり、又八九七番の一の地積は二反十歩であるからいずれもその一部を買収したことになるのであるが、買収令書に買収の対象たる地域を特定していない。結局内容不明確な行政処分という外ない。

(ロ) 原告立原道夫所有の八九八番の二の山林については、買収令書上買収の対象として八九八番の二山林二反四畝十一歩との記載があるが、右八九八番の二の山林はその地積が三反四畝十一歩であるから右買収の対象は一筆の土地の一部ということになるのであるが、買収令書上特定の方法が講ぜられていない。よつてこれまた前同様の違法がある。

4 原告大高正所有の九一八番・九一九番の各山林、同大畠松次郎所有の一、六四五番の山林、同大畠常男所有の一、六四三番の山林、同大畠豊治所有の九二二番・一、四二四番の各山林、同大和田満男所有の一、六四四番の山林、同立原秀彦所有の九二四番の山林については同山林を含む約二十四町歩につき先に鯉渕村農地委員会が未墾地買収計画を樹立したので、同原告等外数名は異議手続を経て茨城県農地委員会に適法な訴願を提起したところ、前掲山林については昭和二十二年十二月十七日訴願容認の裁決をなしたのである。従つて同委員会としては、農地調整法第十五条の二十八等特に法令の定める手続により右裁決が取り消されない以上、この裁決に覊束される。故に同委員会が前記山林につき前掲の買収計画を決定したことは実質上右裁決の趣旨に反する処分を為したことゝなり違法たるを免れない。

5 原告大畠常男所有の九三七番の土地は約二十年前に開墾せられ、地目も現況も畑であり、又同立原美喜枝、由美子、道子、始所有の七二五番の一の土地は現況が畑であるのに、これらをいずれも未墾地と誤認して買収した。

6(イ) 原告田中正雄所有の別紙目録記載の一一八番の山林はその東方約一丁の個所に在る俗に大池と称する溜池の水源地であるが、この溜池の水は附近水田の潅漑用水となつている関係上右山林が買収の上開墾されるときはこの水田は枯渇して了う。

(ロ) 又原告大畠豊治所有の一、四七一番・一、六三五番の山林、同大高市郎所有の一、四四八番・一、六三四番の各山林、同立原俊雄所有の一、六三三番の一、二の各山林はその東方に在る約五反歩の水田の唯一の水源地であつて、これが買収の上開墾されると右水田は枯渇することゝなる。

(ハ) 更に原告大畠豊次所有の一、四七一番の山林、同大高市郎所有の八九〇・八九一・八九二合併番の山林、同河合三郎所有の七二九番・九六五番の山林、同立原昇所有の一、五三九番山林はいずれも水源地であるから買収から当然除外すべき土地である。

7 原告立原美喜枝・由美子・道子・始所有の七二五番、同番の一の各山林は何れも十五度乃至二十度位の傾斜地であるから開墾に適しない。

8 原告等のうち次の者は前掲買収により採草地を全く失ない或は不足を来たし、その結果農業経営が不能となり或は重大な支障を受ける。

(イ) 原告大高正は右買収の結果所有山林は皆無となり農業経営が不可能となつた。

(ロ) 原告大畠松次郎は田畑一町八畝歩を耕作し牛一頭を有しているが、買収の結果山林は茨城県東茨城郡鯉渕村大字鯉渕字一の割一五〇三番の一反二畝二十歩と同字一五六〇番の一反十四歩を残すだけとなつたが、右山林はいずれも松山であつて採草地に不適である。

(ハ) 原告大畠常男は買収の結果その所有山林は約四反歩となり、うち八畝歩は松山であるから採草林としては三反二畝歩を残すだけとなるが、他方同人の耕作面積は現在九反一畝十九歩であり採草地に事欠くこととなる。

(ニ) 原告大畠栄太郎は従来田畑合計約四反歩を耕作していたが、前記買収の結果その所有山林は皆無となつた。

(ホ) 立原章は買収の結果その所有山林は約五反歩を残すだけとなつた。同人は現在既に死亡し同人の妻である原告美喜枝がその後を承けて田畑合計三反三畝九歩を耕作しているが(買収当時章の耕作反別も右と大差はない)採草地として前記山林は十分ではない。

(ヘ) 原告大畠豊治は買収の結果その所有山林は七反歩を残すにすぎない。

(ト) 原告立原昇は買収の結果所有山林は七反六畝となつたがそのうち七反歩は松山であり、採草地は六畝にすぎない。

(チ) 原告河合三郎は買収の結果その所有山林は一畝二十六歩を残すだけとなつた。

(リ) 原告大和田満男は買収の結果所有山林は皆無となつた。

(ヌ) 原告立原秀彦は田畑合計五反四畝二十歩を耕作しているが、買収の結果所有山林は五畝十二歩を残すに過ぎない。

(ル) 原告立原勇は元来農耕に従事していた者で、その耕作反別は九畝二十三歩であつたが、この耕地は凡て買収され、又その所有山林も前記のように買収された結果生活に困窮するに至つたゝめ運転手に就職し、その妻は物品販売業を営むようになつたものである。

以上(イ)乃至(ル)に述べたように未墾地買収の結果被買収者が農業経営に重大な支障を来たす場合にはそのような買収計画乃至買収処分は違法といわねばならない。

二、答弁

(一)  原告等主張の(一)の事実は認める。

(二)1  同(二)1の事実のうち、買収令書の名宛人がそれぞれ原告等主張の者であること及び右令書の名宛人のうち大高澄、大畠勘次郎、立原珍之介、田中平兵衛が原告主張の日に死亡しその主張どおり相続がなされていたことは争わない。しかし右四名を各名宛人とする右令書による買収処分の効力はそれぞれその相続人たる原告大高とき子、同茂子、同幸子、同正美、原告大畠常男、原告立原道夫、原告田中正雄に対して発生するものであり、地元の鯉渕村農地委員会は前掲買収計画のうち一、四七〇番の山林については所有名義人大高澄をその相続人大高とき子、茂子、幸子、正美に、一、四三八番の二・一、四三〇番の二・七一三番・六九八番・九三七番・一、六三八番・一、六四三番の各山林については所有名義人大畠勘次郎をその相続人大畠常男に、一、四六七・一、四六八合併番、一、四六九番・一、四三六番・八九八番の一・一、四六四番・七一九番の二・八九八番の二の各山林については所有名義人立原珍之介をその相続人立原道夫にそれぞれ訂正した旨を昭和二十四年六月二十三日より同月二十七日迄公告したのであるから、買収処分は違法ではない。又九三八番・八八八番の各山林については買収令書の名宛人である立原珍之介が前記のように死亡して居り、買収当時の所有者が原告立原昇であつたとしても、鯉渕村農地委員会は前記要領により買収計画の所有名義人を同人に訂正した旨公告しているから買収処分は違法ではない。

2  同2の事実については買収令書の名宛人として表示した大和田満夫は原告大和田満男、立原俊夫は原告立原俊雄の各誤記であつて買収処分の取消原因とはならない。

3  同3の事実のうち買収の対象が原告主張の通り一筆の土地の一部である点は認める。

4  同4の事実については原告等主張の山林につき地元鯉渕村農地委員会が未墾地買収計画を樹立したところ、原告等から異議手続を経て訴願の提起があつたので、茨城県農地委員会は昭和二十二年十二月十七日原告等主張の山林については訴願容認の裁決をなしたことは認める。ところが前記計画に組み入れられた土地の面積は十町歩を超えて居り、鯉渕村農地委員会としてはこのような土地について買収計画を樹立する権限をもつていないのであるから、茨城県農地委員会は右の計画を取り消した上更めて自ら買収計画を樹立したのであつて先に買収から除外する旨の決議即ち訴願容認の裁決をなしたからといつてこれに拘束されるものではない。

5  同5の事実については、九三七番の山林は買収当時一部が既墾地となつていたにすぎず、しかも原告大畠常男に売渡す予定であるから右山林に対する買収処分は違法ではない。

6  同6の事実については原告等主張の各山林が水源林であるという点は否認する。

7  同7の事実については原告等主張の土地が急傾斜のため開墾不適地であるとの点は否認する。

8(イ)  同8の事実のうち(イ)の点については原告大高正は小学校卒業後直ちに上京し目下株式会社千代田銀行府中支店に勤務し東京都北多摩郡府中町に同人の家族全部が居住して居り農耕に従事していない。従つて本件土地を買収されても同人の営業に支障を来すようなことはない。

(ロ)  同(ロ)の点については原告大畠松次郎は茨城県東茨城郡河和田村大字河和田字稲荷峯四、四八七番の一二山林五反五畝二十二歩を明治四十三年以来所有して居り、公簿上は昭和二十二年一月七日附売買に因り訴外高倉巖(松次郎の姪の配偶者)の所有名義となつているが、右は仮装の売買であつて依然松次郎の所有であり、採草も同人において引続きなしている。従つて原告松次郎が本件買収によつて採草地に窮するようなことはない。

(ハ)  同(ハ)の点については原告大畠常男は本件買収計画樹立当時における耕作面積は六反歩位であつたから採草地が不足することはない。

(ニ)  同(ニ)の点については原告大畠栄太郎は齢八十歳を超えて居り農耕に従事していない。

(ホ)  同(ホ)の点については買収当時立原章は農耕を殆んど営んで居ない実情であるから本件買収に因り採草地に不足を来たすことはない。

(ヘ)  同(ヘ)の点については原告大畠豊治は本件買収後も尚十分な山林を所有しているから採草地に事欠く筈はない。

(ト)  同(ト)の点は否認する。

(チ)  同(チ)の点については原告河合三郎は本件買収にかゝる二筆の所有山林のうち九六五番の山林は元来同人の兄河合健が採草して居り、同人は同山林の買収並びに開墾には何等異議がなかつたものである。又他の一筆即ち七二九番の山林は茨城県東茨城郡鯉渕村大字鯉渕一の割七三〇番の山林とともに訴外大高民司の所有であつたところ、増反者が右山林の開墾申請をなした後である昭和二十一年十一月二十二日同原告がこれを買受けたものである。従て同原告としては、前記二筆の山林が買収されてもその営農上何等支障がなかつたのである。

(リ)  同(リ)の点については原告大和田満男は従来茨城県巡査で茨城県東茨城郡鯉渕村に居住するものでなく、現在は茨城県高萩地区警察署に勤務しその家族も高萩町に居住し農耕に従事しているものではない。

(ヌ)  同(ヌ)の点について原告立原秀彦については買収地につき実施面の上で考慮することになつているから買収により営農上支障を来たすことはない。

(ル)  同(ル)の点については原告立原勇は茨城県抗木組合のトラツク運転手で農業に従事していない。また同人の妻は物品販売業を営み立原一家としては農耕に従事していない。

以上の如く、本件買収計画及び買収処分には何ら違法の点はない。

三、被告の答弁に対する原告等の陳述

被告主張の8の事実のうち

(イ)の点については原告大高正が被告主張のように現在株式会社千代田銀行府中支店に勤務し同人の家族が府中町に居住していることは認める。同原告が府中支店に勤務するようになつたのは昭和二十一年以降のことであつて買収計画樹立当時同人はその家族とともに東京都に居住していた。

(ロ)の点については原告大畠松次郎、高倉巖間の売買契約が仮装であるという点、同原告が以前から四、四八七番の一二の山林から採草し現在に至つているという点は凡て否認する。右高倉は松次郎の姪の夫に該り全然採草林が無く然も高倉は河和田村の者である関係上同人から無心されて売り渡したものである。尚右山林は松次郎方から約三粁の距離に在る。

(ニ)の点については原告大畠栄太郎は現在農耕に従事していないことは認めるが、買収計画樹立当時は同人が自ら農耕に従事していたのであるが、老齢のためその耕作反別を漸次減少し現在畑一反五畝二十九歩を同人の妻みのが耕作している。

(チ)の点については原告河合三郎が訴外大高民司から昭和二十一年十一月二十二日その主張の山林を買い受けたことは認めるが、同山林の実権は河合健が握つているとの点、同人が同地の買収に異議なく開墾入植に同意しているとの点は否認する。同地は原告三郎において採草地不足のため買い受けたものである。又九六五番の山林は同人において採草し来たつたものである。

(リ)の点については原告大和田満男が昭和二十二年秋頃から茨城県巡査となつていることは認める。

(ル)の点については原告立原勇は終戦前茨城県東茨城郡長岡村駐屯の一〇三部隊に勤務し終戦後は長岡村所在の軍用地を一人平均二反歩位の割合で二十名で開拓の上耕作していた。同人は鯉渕村出身者でその生家は農業を営んでいたが、立原昇の勧めにより鯉渕村に帰農の目的で前記長岡村の開拓地を引き揚げ昭和二十一年度の冬作には鯉渕村大字鯉渕字一の割九九四番畑九畝、同字一、〇七五番畑六畝二十二歩を耕作し辛うじてその生活を維持して来たのであるが、右二筆のみをもつてしては到底その生計を維持するに足らないため更に五畝二十二歩及び八畝二歩の田(いずれも小作地)の返還を受けて耕作しようとしたところ、集団的な日本農民組合の圧力によつて耕作することができなかつた。このような事情のため已むを得ず昭和二十二年三月現在の職業に就きその生計を維持しているものであるが、自動車の運転は危険な業務であるので今以て農耕に従事したいという当初の目的を変えてはいない。

第三、証拠方法<省略>

三、理  由

原告等主張の(一)の事実については当事者間に争がない。そこで被告のなした本件買収処分に原告等の主張する違法が存するかどうかについて順を逐うて判断する。

一、死者を相手方とする買収処分は違法である旨の主張について

(一)  原告大高とき子・茂子・幸子・正美関係分

一、四七〇番の山林はもと訴外大高澄の所有であつたが、同人は昭和二十三年二月九日死亡し、原告大高とき子及び茂子、幸子、正美が遺産相続に因つて右の土地の所有権を取得したことは当事者間に争がなく、この事実と弁論の全趣旨を綜合すると、原告四名が右土地の所有権を取得したのに登記簿上は依然澄の所有名義のまゝとなつていたところ、茨城県農地委員会は前記山林につき登記簿の記載に依拠して澄を名宛人としていわゆる未墾地買収計画を樹立し、次いで被告もこれにもとずいて同人を相手方として買収令書を発行、これを原告とき子に交付して買収処分を為したことがうかゞわれる。そうすると、右買収計画並びに買収処分は右の土地の買収当時における所有者たる原告四名に対して為されず、その前主(登記簿上の所有名義人)である亡大高澄に対して為されているわけである。このように真実の土地所有者以外の者を名宛人として買収計画が樹立せられ、同計画にもとずき実質上の所有者でない者に対してなされた買収処分は違法として取消を免れないものといわなければならない。(最高昭和二五年(オ)第四一六号同二八年二月一八日大法廷判決、最高昭和二六年(オ)第一六二号同二九年一月二二日第二小法廷判決、最高昭和二七年(オ)第五五二号同二八年一〇月一六日第二小法廷判決参照)。

(二) 一、四三八番の二・一、四三〇番の二の各山林については、原告主張の日に、原告大畠松次郎、訴外大畠勘次郎両名を相手方とする買収計画にもとずき、被告がこの両名を名宛人とする買収令書を発行しこれを右原告並びに原告大畠常男に交付して買収処分を了したことは当事者間に争がなく、成立について争のない甲第三号証、乙第一号証の二、三原告大畠松次郎(第二回)本人尋問の結果並びに本件弁論の全趣旨を綜合すると、右二筆の山林はもと一、四三八番、一四三〇番の各山林の一部であつて大正三年三月四日原告松次郎と勘次郎の両名共同でこれを買い受けたのであるが、その後間もなく両名協議の上分割し一、四三〇番の二・一、四三八番の二に該当する地域は勘次郎の単独所有に帰し、大正五年二月二日分筆登記手続を了したのであるが、勘次郎は昭和十三年三月七日死亡し原告常男が家督相続によりその所有権を取得したこと(この相続の点は当事者間に争がない)が認められる。(原告大畠常男の供述のうち右認定に反する部分は信用しない)右のように既に原告常男が相続により単独所有権を取得しているにもかゝわらず、被相続人たる亡勘次郎並びに原告大畠松次郎両名を名宛人として為した買収計画並びに買収処分は違法として取消を免れない。

(三) 七一三番・六九八番・九三七番・一、六三八番・一、六四三番の各山林に対する買収手続は前記大畠勘次郎を相手方として進められ、被告も同人を名宛人とする買収令書を発行、これを原告大畠常男に交付して買収処分をなしたこと、同人が昭和十三年三月七日死亡していること、原告常男は同日家督相続により前記山林の所有権を承継取得していることは当事者間に争がない。このように、買収手続当時既に原告常男の所有に帰していた右の土地についてその前主である亡勘次郎を相手方として為された買収処分は違法として取消を免れない。

(四) 一、四六七・一、四六八合併番・一、四六九番・一、四三六番・八九八番の一・一、四六四番の各土地に対する買収手続は訴外立原珍之介を相手方として進められ、被告も同人を名宛人とする買収令書を発行して買収処分を了したこと、珍之介は昭和三年一月十七日死亡し原告道夫が家督相続に因り前記山林の所有権を取得していたことは当事者間に争がない。このように買収手続当時既に原告道夫の所有に帰していた前記の土地についてその前主である亡珍之介を相手方として為された買収処分は違法として取消を免れない。

(五) 一一八番の山林については訴外田中平兵衛を相手方として買収手続が進められ、被告も同人を名宛人とする買収令書を発行、これを原告田中正雄に交付して買収処分を為したこと、平兵衛は昭和二十一年八月九日死亡し右山林の所有権は家督相続人である原告正雄が承継取得したことは当事者間に争のないところである。このように真実の所有者以外の者を名宛人として為された買収処分は違法として取消を免れない。

二、実質上の所有者でない者を相手方とする買収処分は違法である旨の主張について

(一)  九三八番・八八四番・八八八番の各山林に対する買収令書の名宛人が訴外立原珍之介となつている点は当事者間に争がなく、成立について争のない甲第八号証及び乙第一号証の十六・十七・十八、原告立原昇、同道夫各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、原告立原昇は昭和二十一年十一月四日右珍之介の家督相続人である原告道夫から右山林を買い受けたのであるが、茨城県農地委員会は珍之介を所有者と表示して買収計画を樹立し、同計画にもとずき被告は前記買収令書を原告道夫に交付して買収処分をなしたことが認められる。このように実質上の所有者でない者を相手方として為された買収処分は違法として取消を免れない。

(二)  八八一番・一、四三九番の各山林に対する買収令書の名宛人が原告立原道夫となつている点については当事者間に争がなく、成立について争のない乙第一号証の十九・二十及び甲第九号証によれば原告昇が昭和二十一年二月二十八日右山林を道夫から買い受けてその所有権を取得したことが窺われる。してみれば、前同様右買収処分もまた実質上の権利者以外の者に対する買収処分として違法であるといわねばならない。

(三)  七一九番の一、二・八九八番の二の各山林に対する買収令書の名宛人が原告立原昇となつていることは当事者間に争がなく、原告立原道夫本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、右山林はもともと原告道夫の所有であることが認められる。他方当事者間に争のない前記事実と弁論の全趣旨を綜合すると、茨城県農地委員会は右山林につきその実質上の所有者を原告昇と目して買収計画を樹立し、同計画にもとずいて被告は前記買収令書を同原告に交付して買収処分をなしたことが認められる。従つて前記各山林に対する買収処分も前同様の理由により違法たるを免れない。

三、大和田満夫及び立原俊夫を名宛人として記載した買収令書による買収処分について

一、六四四番の山林に対する買収令書の名宛人が大和田満夫となつており、一、六三三番の一、二・一、六三九番・一、六四一番の各山林に対する買収令書の名宛人が立原俊夫となつて居ることは当事者間に争がなく、成立について争のない乙第一号証の十五・二十一・二十二・二十三・二十四によれば、以上のうち一、六四四番の山林は原告大和田満男の所有であり、その余の山林は原告立原俊雄の所有であることが認められ、当事者間に争のない前記事実と本件弁論の全趣旨を綜合すると、茨城県農地委員会は前記山林について大和田満夫(一、六四四番の山林)立原俊夫(一、六三三番の一、二・一、六三九番・一、六四一番の各山林)名義で買収計画を樹立し、被告も同名義の買収令書を発行、原告両名に交付して買収処分をなしたのであるが、右買収計画書及び買収令書に記載された右各山林の所在、地番、地目及び面積並びに所有者の住所はいずれも登記簿上の表示と一致していることが認められ、この点については右原告等も明らかに争つていないのであるから、前記買収手続はそれぞれ原告両名を相手方として遂行せられて来たのであり、そのことを当時右両名において知つていたものと推認される。尤も原告大和田が買収計画に関する異議、訴願の手続をなしていないことは弁論の全趣旨により認められるところであるが、これが同計画書の所有者名義が大和田満夫となつていたことに因るものと考うべき特別の事情も認められない。そうすると買収令書の名宛人を大和田満夫、立原俊夫としてもそれは単なる誤記にすぎず、このような誤記によつて所有者である前記両原告に特に不利益を与えたという事跡の認められない本件においては、右の瑕疵は買収処分の違法原因となすに足らないものと解すべきである。

四、一筆の土地の一部買収の主張について

原告立原昇所有の八九七番の一の畑については一反五畝十歩を買収の対象としていることについては当事者間に争がなく、(成立について争のない甲第十三号証によれば八九七番の一の畑の台帳上の地積は二反十歩であることが認められる。)且つ右の買収が一筆の土地の一部の買収であることは被告の認めるところであり、買収令書の上において買収すべき地域を特定する方法を講じたことを認めるに足る何等の資料も存しない。このように買収令書上買収すべき土地として単に八九七番の一、一反五畝十歩と表示したにすぎない場合においては果して右のいずれの部分を買収するのか令書上明確にされていないことゝなり、内容の不明確な行政処分としてかゝる買収処分は違法であること明らかである。

五、本件山林の一部に対する買収計画決定は県農地委員会が先になした裁決と実質上牴触する処分であるから違法である旨の主張について

鯉渕村農地委員会が原告等主張の八筆の山林をも含む約二十四町歩の土地について買収計画を樹立し、同原告等から提起された同人等の訴願に対しては茨城県農地委員会において訴願認容の裁決がなされたことは当事者間に争のないところである。ところで自作農法第三十条第一項の規定による未墾地の買収計画決定はその面積十町歩以下の場合に限り村農地委員会の権限に属せしめられており、右の面積を超える土地につき買収計画を樹立する権限を村農地委員会に認めた法令は存しない。されば十町歩を超える土地についての前記計画の樹立は同委員会が法規上の根拠をなくしてなした無効の処分という他はない。成立に争のない甲第十一号証によれば、訴願人たる原告大高正その他は訴願理由の一として右の不法を主張していることが明らかであつて、県農地委員会としては右の理由によつて訴願をすべて容認すべきであつたのに不当にもこれを看過し、一部容認一部棄却の裁決をしたのであるが(前記甲第十一号証)後にその不当なることを覚知し、県農地委員会として改めて本件買収処分の基礎たる買収計画を樹立するに至つたものとみられる。この場合県農地委員会としては、新規に買収計画を樹立するに際し改めて事実調査をし、買収計画に組み入れるべき土地を新に選定すべく、先に訴願の裁決をなすにあたり過誤のあつたことを発見したときはその裁決における判断に必ずしも拘束されないものと考えるべきである。殊に前記甲第十一号証によれば、訴願理由は一、水源地であること、二、堆肥及び薪炭に困難を来す、三、十町歩以上の買収を村農委が計画したのは違法であることの三点にあるに対し、裁決の理由は全然これを示すことなく、単に買収より除外すべき地番反別のみを掲げてその部分につき訴願を容認し他は計画通り買収する旨記載してあるだけであつて、このような法定記載要件を欠く裁決書による裁決はそれ自体効力なきものともいゝ得べく、これに対し原告主張のような拘束力を認むべき理由はないものといわねばならない。

故に本件買収計画のうち前記八筆の山林に対する部分について原告等の主張するような違法は存しない。

六、農地に対し未墾地買収をなした旨の主張について

原告立原美喜枝、由美子、道子、始所有の七二五番の一の山林が本件買収計画又は買収処分当時畑であつた旨の主張については、この点に関する証人大高登の証言は検証の結果と比較し信用するに足らず、却つて右検証の結果によれば右土地は買収計画当時の現況未墾地であつたものと認められるから、右主張は失当という外はない。

七、水源地なるが故にこれが買収は違法である旨の主張について

一、六三五番・一、四四八番・一、六三四番・一、六三三番の一、二・一、四七一番・八九〇・八九一・八九二合併番・七二九番・九六五番・一、五三九番の各山林については原告等は同山林は水源地であるから開発を目的として買収することは違法である旨主張するのでこの点について考える。証人大高登、大畠美寿の各証言、検証の結果を綜合すると、右山林の開墾に因り附近水田の潅漑用水に若干の影響を及ぼすことは認められるけれども、これがため同水田の収穫に重大な影響を与えるという点についてはこれを認めるに足る何等の資料も存しない。

右の山林に対する買収処分にはこの点について何等違法は存しないものといわなければならない。

八、開墾不適地であるとの主張について

原告立原美喜枝・由美子・道子・始所有の七二五番・同番の一の各山林について同原告等は十五度乃至二十度位の傾斜をなし開墾に適しない旨主張し、証人大高登、大畠美寿の各証言中右趣旨に副う部分があるけれども、成立について争のない乙第三号証・同第四号証の二に比照しにわかに信用しがたい。却て右書証によれば右各山林は全体としてはせいぜい八度程度であり、この程度の傾斜は開墾に適するものと認められるから、仮りに若干の地域に亘り原告主張のような傾斜を形成する箇所があつたとしても全体としてはなお開墾適地たることを失うものではないと考えられる。本件買収処分はこの点において何等の違法も存しない。

九、本件買収処分が原告等の営農に重大な支障を来たす旨の主張について

(一)  原告大高正について

同原告は本件買収の結果その所有山林は皆無となり、農業経営が不能となつた旨主張するけれども、同人は昭和二十一年以降株式会社千代田銀行府中支店に勤務し本件買収計画樹立当時はその家族とともに東京都に居住していたことは同原告の自陳するところであるから、同人の営農に影響を及ぼすというようなことはあり得ない。

(二)  原告大畠松次郎について

成立について争のない乙第四号証の二、原告大畠松次郎本人尋問の結果(第一回)を綜合すると、本件買収の結果同原告の所有山林は二反二畝四歩となつたが、買収計画樹立当時同人は田畑合計一町二反九畝二十八歩を自作し、同じく一反二畝歩を小作し結局一町四反一畝二十八歩を耕作していたことが認められる。被告は茨城県東茨城郡河和田村大字河和田字稲荷峯四、四八七番の一二山林五反五畝二十五歩は登記簿上昭和二十二年一月七日附売買によつて訴外高倉巖の所有名義となつているが、これは仮装の売買であつて依然原告松次郎の所有であり、採草も同人においてなしている旨主張するけれども、右の売買が仮装のものであるという点については証人大畠市郎のこの点に関する証言は措信し難く、他にこれを認めるに足る資料は存しない。却て成立について争のない乙第五号証・同原告本人尋問の結果(第二回)によれば、訴外高倉は原告松次郎の姪の夫で田畑合計一町三反余を耕作していたが、山林は全然有していなかつたし、又右山林は河和田村に在るという関係もあつたので昭和二十二年一月七日原告松次郎は右訴外人に同地を売渡し爾後同地からは採草をしていないことが認められる。従つて原告松次郎が採草に使用しうる山林は前記のように二反二畝四歩であるからその耕地面積に対する比率は約一割五分に過ぎないことゝなり、本件一、四七三番・一、六三一番・一、六四五番の各山林全部に対する買収処分が同人の営農に及ぼす影響は極めて大きく、ために同人の自作農としての地位をおびやかす結果となることは、成立に争のない乙第四号証の一、証人藤枝義雄同上村武吉の証言を綜合しこれを認めることができる。このように右買収処分は少くともその一部に関する限り自作農法本来の目的を逸脱し違法の処分といわなければならない。本件口頭弁論の全趣旨によれば被告は原告等のうち本件買収のため未墾地が皆無又は甚だしく少くなり農業経営に支障を来す者に対しては実施面考慮として、本件買収地の一部を売り渡し或は採草地として使用せしめる意向を有するものゝようにもみられるが、何人にいかなる土地を売り渡し又は使用せしめるものであるかについてはこれを認めるに足る何等の資料もない。もし本件買収により被買収者の一部の者が農業経営に重大な支障を来すことがわかつているならば、県農地委員会としては自創法第三十七条により、代地を特定して買収の計画を樹立すべきである。しかるに本件買収計画は自作農法第三十条第一項第一号に基いて買収するものとして計画が樹立されたことは被告の自ら主張するところであるから、本件買収計画樹立に当つて原告等の一部の者に買収地の一部を売り渡すことは予想していなかつたものともいい得るわけであり、前記実施面考慮というようなことで、前記原告に対する買収を適法化することはできないものといわねばならない。ところで自作農法第三十条第一項の規定による未墾地の買収においては、具体的に如何なる土地を選定してこれを買収計画に組み入れるかは農業委員会の技術的政策的な考慮にもとずいて決定すべき問題であるから、本件においても前記三筆の山林のうちいずれの一部を買収から除外するかは同委員会の裁量に留保する必要があると認める。よつて右三筆の全部につき買収処分を取り消すことゝする。

(三)  原告大畠栄太郎について

同原告が本件買収処分の結果その所有山林を全く失つたという点についてはこれを認めるに足る何等の資料も存しない。却て前顕乙第四号証の二によれば、右買収の結果なお山林五反九畝十五歩を所有することが認められるから、買収計画樹立当時の耕作反別が仮に原告が主張するように約四反であつたとしても、同人の営農が本件買収によつて重大な支障を来たすものとは考えられない。

(四)  立原章並びに原告大畠豊治について

同人等は本件買収の結果その営農上重大な支障を来たすことになる旨主張するがこれを認めるに足る資料は存しない。

(五)  原告立原昇について

原告立原昇本人尋問の結果によれば、同人は水田約三反四畝、畑三反六畝を耕作しているが、本件買収の結果その所有山林は約八反七畝歩となりそのうち約七反歩は松山であることが認められるが、いずれにしても耕地面積に匹敵するだけの山林を有する以上営農上大なる支障ありとは思われず、且つ又他方前記乙第四号証の二(一部)原告立原道夫本人尋問の結果によると、原告道夫は田畑合計二反八畝九歩を耕作する小作農であるが、その所有山林は約一町歩であつて、従前その一部を採草地として原告昇に使用させたこともあり、又同人とはもと継親子の関係に在つた関係上将来も原告昇が希望すれば採草を許す意思があることが認められるから、本件買収処分により原告昇の営農に重大な支障を来たすものとは考えられない。

(六)  原告河合三郎について

前記乙第四号証の二、原告河合三郎本人尋問の結果を綜合すると同人は田畑合計一町歩余を自作し同じく三反歩余を小作しているが、本件買収の結果その所有山林は一畝歩余を残すにすぎなくなつたことが認められる。そうすると山林の耕地に対する面積の比率は一割にも満たないこととなるわけである。右の事実と成立について争のない乙第四号証の一(一〇(2)個人別の検討と題する項)を綜合すると、本件買収により原告河合はその営農に重大な支障を来たすことゝなるものと考える。被告は原告河合三郎の買収山林のうち九六五番山林は同原告の兄河合健が採草していたものであり、同人は右買収に異議がなかつたし、七二九番山林は増反者の開墾申請後に原告三郎が買い受けたものであるから、同原告としては右山林が買収されても営農上支障を来すことはないと主張し、証人大畠春吉の証言中右に副う部分があるけれども、証人河合源武の証言と対比し、にわかに措信し難い。従て、本件七二九番・九六五番の両山林に対する買収処分はその一部に関する限り自作農法第一条の精神に反し違法たるを免れないから(二)の原告大畠松次郎の場合と同様全部取り消すべきものと考える。

(七)  原告大和田満男について

同原告が本件買収の結果その営農上重大な支障を来たすという点についてはこれを認めるに足る資料は存在しない。

(八)  原告立原秀彦について

前記乙第四号証の二(一部)原告立原秀彦本人尋問の結果(一部)を綜合すると、同人は田畑合計約五反五畝歩を耕作しているが、本件買収の結果その所有山林(現況山林のもの)は僅かに約五畝歩を残すだけとなつたことが認められ、右の事実と前記乙第四号証の一を綜合すると、同人には更に或る程度の山林を確保するのでなければその営農に重大な支障を来たすものと認められる。従つてこの場合も(二)の原告大畠松次郎の場合と同様九二四番・九二五番・一、四七四番・一、六九一番の各山林全部に対する買収処分を取り消すことゝする。

(九)  原告立原勇について

同原告が本件買収処分の結果その営農上重大な支障を来たすという点についてはこれを認めるに足る証拠は存在しない。

十、結論

以上の通りであるから結局において本件各買収処分は原告大畠松次郎、同大畠常男、同立原道夫、同河合三郎、同田中正雄、同立原秀彦、同大畠とき子、同大高茂子、同大高幸子、同大高正美については全部違法であるからこれが取消を求める同原告等の本訴請求は全部正当として認容し、原告立原昇については八八一番・八八四番・八八八番・八九七番の一・九三八番・一、四三九番の各山林に関する限度において違法であるから、右原告の本訴請求中これが取消を求める部分は正当として認容し、その余の部分は失当として棄却し、本件原告等のうち前記原告を除くその余の者の請求は失当として全部棄却すべきものとする。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条・第九十二条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 多田貞治 中久喜俊世 石崎政男)

(目録省略)

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